お嬢様とその執事 ― 彼女が彼に勝つための唯一にして最大の武器 ― 「私が今から何をしようとしているかわかるかしら、セオ?」 「もちろんです、お嬢様。私の『ファーストクラス・バトラー』に合格したお祝いをして下さるのでしょう?」 「あーもう、嫌になるわ!せっかく内緒に準備をしていたのにお前には全部分かっているのだもの!」 「ええ、お嬢様に関わることならば全て把握しておくことも、執事たる私の勤めでありますから。」 嫌味なくらいにニッコリと笑みを浮かべ、セオドリックは言う。 「まったく!そうよね、私がお父様の書斎の鍵を隠したことをお父様に言ったのも、お母様の大事なお洋服を汚して隠したことをお母様に告げたのも、他にも数え上げれば切りがないほどセオには隠し事が出来なかったのだものねっ!」 本当によく知っていること!とあきれながらもどこか楽しそうにミンカも言い返す。 「まあ、いいわ。お前の『ファーストクラス・バトラー』合格祝い、始めるわよ!」 「合格祝いに、このミンカ様がなんでも一つだけ欲しいものをあげるわ。さあ、なんでも言ってごらんなさい!」 「なんでも、ですか・・。」 ミンカの言葉にニヤリと笑うとセオドリックは自身の望みを口にする。 「では・・・、お嬢様を頂きたく。」 それはいつもの二人の遣り取り、軽い冗談であり、常ならばミンカの答えも決まっていた。 冗談でなければならなかった。二人は主従なのだから。 しかし、今日のミンカはいつもと異なる答えを用意した。 「いいわ!セオドリック・ニッケン、私と結婚しなさい?」 想定外のミンカの言葉にセオドリックは絶句する。 いつもなら、ミンカは冗談をあやすようにセオドリックを軽く諌め、その場を治めたはずだった。 セオドリックが言葉に秘めた想いに気付くことなく。 しかし、セオドリックはわずかに期待しながらも安心していた。 決して越えてはならぬ想いをひた隠し、ミンカを支える。 それだけが自らに与えられた幸福であり、またそうで在りたいと願っていた。 「お、お嬢様。冗談はお止め下さいっ!」 「あら、私は本気よ?何をそんなに焦って・・・」 普段見ることのないセオドリックの混乱した様子にミンカの方こそ不信感を覚える。 いぶかしむミンカの頭に一つの可能性が浮上した。 それは、いままでセオドリックに勝てなかったミンカにとって、とても楽しいことに思えた。 「もしかして、お前、気付いていなかったのかしら?私の気持ち。」 そう言って、ミンカはセオドリックの顔を覗き込む。 「うわっ!」 いつもの冷静ぶりはどこへやらセオドリックは飛びのく。 しかし、次の瞬間には、ハッとして、 「お嬢様!本当に冗談はそのくらいにっ!!」 「いいえ、本当よ?お前は私が好きなのだし、何か問題があるかしら?」 パクパクとその顔は一気に朱に染まる。 「どっ・・どどどうして、それを!!」 セオドリックのあまりの慌て様にミンカは笑う。 「ふふ、バレバレよ?お前は気付いてない様だったけど、私への甘言を紡ぐときだけ、少し声が高くなるのよ。」 それを聞いたセオドリックはさらに朱くなる。 「と、まあ、セオをからかうのはこれくらいにして・・・、実はもうお父様の了解は得ているのよ。 お前が『ファーストクラス・バトラー』となったら結婚を許すと。」 さあ、あとはお前の返事だけよ? ミンカは美しく笑った。 Choroの遊び場のchoroさんから 一周年記念のお祝いとして いくつか候補を頂いて「どれにする?」と聞かれ迷いつつも大好物の執事をお願いしました。 優勢だったセオがどんどんミンカちゃんに押されていく様は読んでいてニヤニヤしてしまいました。 すごくお似合いのカップルだと思います、ニヤニヤがとまりません! choroさん、素敵なお話をありがとうございます。これからもよろしくおねがいします^^ |